村上春樹の『アフターダーク』を読みました。今日は文体を変えて、読書感想文。
都会の終電後、少しづつ係わる登場人物達の一晩の出来事を描いた作品。
その描かれるシーンとシーンは、視点(見る人/覗き込む人)が変わることも考慮して、読み手は頭の中で立体的に組み立てながら読まなければならない。時には同時に複数の視点さえ持つ。
この深夜の7〜8時間の出来事、
-----ファミレスで若者が発する取り留めのない言葉も、冷めた女の子の返事も、密室で行われる暴力も、姿の見えない恐怖も、頼りがいのある姉御肌の威勢も・・・
すべては闇の中の重たくギュッと圧縮された空気の中で生み出されるものだ。
ずっと目を覚まさない姉妹の姉。彼女だけはずっと闇の中にいる。
普段は暴力性を隠している男が、女性を殴る蹴るの末、取り上げた携帯電話を深夜のコンビニの棚に置く描写は、梶井基次郎の『檸檬』を思わせた。その携帯電話に繋がる向こう側には恐ろしい闇があった。
ファミレスでの会話で「プールに行ったね」という回想シーンがあるが、その映像には陰影が無く、のっぺりした下手な漫画のように感じる。著者の意図的な表現だろう。
それとは逆に、
停電で真っ暗なエレベーターに閉じ込められたという回想シーンは、しっかりと状況が伝わってくる。
村上春樹がこの作品で描いたものは、非日常のような日常である。
夜明けとともに、この物語全体が、ふっと浮揚する。
そこで、ホッと救われたような気持ちになるが、
逆に光によって見えなくなってしまうものがあるという恐怖も消えないでいる。
姉はいつ目を覚ますのだろうか。